訪日外国人1166人アンケート調査から読み解く最新のインバウンド動向

Kaori Kitagawa

訪日外国人1166人アンケート調査から読み解く最新のインバウンド動向
 
弊社ファストトレインが2018年の9月に実施したオンラインアンケートによると、昨今のインバウンド観光客の多くは、大手日系旅行会社などが発行する観光ガイドや情報(オンラインとオフライン含む)よりも、外国人が中心となって経営するオンラインメディアサイトや、個人が発信するYoutubeなどの映像を情報源として来日時の参考にする傾向が強くなっていることが判明した。
1年前のアンケート結果は合計994人の読者の声に基づいていたが、弊社サイトの読者数が伸びていることもあり、今回はその倍以上となる1166人の読者の声に基づいた結果を元にデータ分析を行った。

その中から特に興味深い部分を是非ご紹介したいと思う。
 
l   日本特有の自然や田舎で日常生活を味う体験型観光は人気上昇中

図1:WHAT INTERESTS YOU ABOUT JAPAN?(日本のどういうところに興味がありますか?)という質問に対しての回答のグラフ

全体的に大きな変わりが無いように見えるアンケート結果には、いくつか目を引く点があった。まず、以前と同様に日本の文化や伝統、そして日本の食べ物を目当てに来る、という人が目立ったのだが、その中でも近未来的な日本を味わうだけでなく、じわりじわりと「自然や環境」、「デザインや建築物」という角度への関心が高まっていることが分かった。

いわゆる作り込まれた観光地は沢山あるが、日本人が観光地だと思っていないような田舎の風景、自然、建築への関心も高まっている。これらの内容が人気を集めている理由としては、「特定の体験、場所の案内や紹介」などがAirBnB Experiences, Trip Advisorなどから個人でも紹介できる(または個人だからこそ紹介できる)コンテンツでもあり素朴な売り物になっている時代であることは大きいだろう。また、2012にオープンした新宿のロボットレストランやチームラボが2018年6月にお台場の森ビルでオープンしたデジタルアートミュージアムなど近代未来の空気が漂うきらびやかな場所にも注目が集まる中、それとはかけ離れ、自然や地域密着型のアナログな内容のコンテンツへ注目が集まっている。
 
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宿泊先を決める際に一番使われているのはやはりあの外資系旅行サイト

図2:WHICH BOOKING SERVICES HAVE YOU USED?「どの宿泊予約サイトをご利用されていますか」という質問に対しての回答のグラフ

また、日本へ旅行をすると決め、航空券の手配をした後にまずする事と言えば宿泊先を決めることだろう。「どちらのサイト経由で宿泊先を予約しましたか」という質問に対して前年度同様、Booking.comが第一位を獲得した。ただ、前年度、近い数字で人気だったAirBnBは、2018年6月の新民泊法の施行で日本の宿泊先のリスティングが大幅に減った影響もあってか少し人気が落ち、その代わりにAgoda、Expediaの人気が伸びている。また、アジア系のオンライン旅行会社の利用率は伸びているが、日系の旅行会社経由で手配するという割合は前年度より5%落ちている。外国人にとってのサイトの使いやすさや内容の分かりやすさ、日本語以外の言語への対応の状況などがこのような結果へ繋がっているのではないかと思われる。
 
l   伸び代があるインバウンド及びリピート観光客数

図3:HOW MANY TIMES HAVE YOU BEEN TO JAPAN (EXCLUDING RESIDENTS OF JAPAN) ?「日本在住以外の方に聞きます。来日経験は何回ありますか」という質問に対しての回答のグラフ

また、今回と前年度のアンケートと比較したところ、前回はアンケート回答者の約半数が「日本には一度行った事がある」と述べていたが、今回は一度行った事のあるリピート観光客数が、3回以上来日した観光客数に近づき、前年度より伸びている。2020年の東京オリンピックに向けて日本政府がインバウンド観光客への対応へ力を入れていることは東京の街中を歩いたら他言語のアナウンスや看板が増えている事から一目瞭然だが、アンケート結果からも海外からの旅行者が着実に毎年伸びており、この流れでいくと2019年も更に数字が伸びることが予測される。

余談となるが、先日、筆者の知り合いが香港から遊びに来ていた。彼は日本に50回以上来日経験があり、ほぼ全ての都道府県に訪れていると知り、正直驚いた。一度日本への旅行が楽しめると、来日観光客はリピート客がそれなりに多いことは弊社アンケートの「今後また来日したいですか」という質問に対して約9割がYESと言っていることからも分かっていることから、それを前提にインバウンド対策を進める必要があるのかもしれない。
 
l   「日本の情報は、日本人ではなく他の外国人に尋ねよう」という心理

図4:WHICH OF THESE HAVE HELPED WITH PLANNING/INSPIRATION FOR A TRIP TO JAPAN?「日本への旅行の企画やインスピレーションは何を見て受けましたか」という質問に対しての回答のグラフ

もし日本人であるあなたが海外に旅行に行く場合、その国の人が書いた観光情報の「日本語版」を読みたいだろうか。それともその国に詳しい日本人が書いた情報を読みたいだろうか。そのアプローチの違いを考えてほしい。

もちろん、現地の人が発信している情報が「正しいかどうか」を疑うことはないだろう。ただ、自分にとってピンとくるリアルな情報を知りたければ、考えや求めているものの傾向が似ている他の日本人が教えてくれる情報に関心を持つのではないかと思う。弊社の読者もまさしく同等の心理状況に置かれていると考えられる。弊社の情報サイトTokyoCheapo.comやJapanCheapo.comの他に多くの来日予定の外国人が参考にしているサイトは、海外のメディア会社や個人が日本についてまとめた情報源であることがアンケート結果から分かっている。また、このご時世なので情報源は殆どの場合、オンラインで収集していて、本や紙媒体に頼る傾向は弱まってきていことが分かる。
 
l   まとめ 訪日外国人が日本で一番困ることは、やはりコミュニケーション

図5:WHAT TOURISTS HAVE DIFFICULTY WITH IN JAPAN「日本に来て遭遇する問題を教えてください」という質問に対しての回答のグラフ

最後に、今回のアンケートの中で、もっとも今の訪日外国人に対するアプローチで重要になってくることは、「コミュニケーション」かもしれない。アンケートでも読み解けるように、多くの外国人が訪日中に困ったこととして「日本人とのコミュニケーション」だと述べている。日本人が運営する日本の旅行代理店はますます外国人に使われなくなっており、情報源も日本を外者として見ている人達の意見に耳を傾ける傾向に向かっているのではないだろうか。最近、日本では「自動翻訳アプリ」やAIをベースとした翻訳コミュニケーションツールがもてはやされている。ただ、生身の人間を相手に何かを伝えようとした時、機械を介して本当の意図や思いやりなどがどこまで伝わるだろうか。有名な映画のタイトルにもあるように、今の日本は観光客にとってlost in translation現象、つまり翻訳することで失われる内容は沢山ある中、結局、個人の外国人がYouTubeで日本の情報を流している情報の方を好んで参考にする時代になっている。このような時代であるからこそ、差別化して秀でる為には、機械化した翻訳ツールなどのコミュニケーションだけに頼るのでなく、私達日本人が訪日外国人の立場になってどんなアプローチがピンとくるかを考え、試行錯誤しながらでも良いから一生懸命に想いを伝えることが一番良い方法なのかもしれない。

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