インバウンド戦略で陥る7つの失敗!日本企業が成功をつかむための改善策

Hitomi Kuroda

インバウンドツーリズムの戦略に取り組む中で、以下のようなことでお悩みではないでしょうか。

  • インバウンド集客で失敗して大きな損失を出したくない。
  • 望ましい結果が出ていないので、原因と解決法を知りたい。
  • インバウンドツーリズムの失敗事例にはどんなものがあるの?

「失敗」や「間違い」は、ネガティブに捉えられがちな言葉ですが、失敗は成功のもと。成功するための貴重な教訓です。

重要なのは、失敗の原因を分析し、解決策を見い出して最良の戦略を立案・実行することです。とは言え、ビジネスで大きな失敗は避けたいものです。

そこで、インバウンド戦略で日本の企業が陥っている7つの失敗や間違いの事例と解決策について、Fast Train Mediaのツーリズム・マーケティング専門家の意見を紹介します。

インバウンドビジネスを成功させるために、役立つヒントになるかもしれないので、ぜひご一読ください。

1. テストマーケティングをしない

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インバウンド市場でのニーズをテストしないで、商品やサービスを提供し、失敗しているケースがあります。

多額のプロモーション費用を使う前に、まずはターゲットとする市場でテストマーケティングし、市場のニーズに合っているかどうかを確かめましょう。

市場で需要があるかどうかを知ることは、ビジネスで最も重要な要素の一つです。

自信を持って商品やサービスを世の中に出すことは大切です。一方で、漠然とした思い込みや思い入れはときに危険です。

つい「思いを伝えたい」「外国人にこんな日本の良さを理解してもらいたい」と熱が入る気持ちはよく分かります。

しかし、その「思い」が外国人に伝わりづらい、もしくは外国人のニーズと合っていない場合があるのです。

まずは、テストマーケティングを実施することで、リスクを軽減し、効率的な戦略の立案・実行が実現できます。

2.日本人が魅力的に感じることは外国人にも響くと信じている

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「日本人が魅力的に感じる観光資源やサービスは、外国人にとっても魅力的だろう」と考えるのは、間違いの始まりです。必ずしもイコールではありません。

スイカは日本の観光の目玉になるのか?

例えば、日本で夏の果物と言えば「スイカ」が思い浮かびますが、スイカを日本の観光の目玉にすることは、おすすめできないかもしれません。

少なくとも欧米人の観光客は、スイカを食べる目的で、日本の特定の地域を訪れることはあまりないでしょう。

もちろん、スイカが好きな人はいますが、スイカはアジア、アメリカ、ヨーロッパなどにもあります。「日本のスイカは特別」という印象はあまりないのです。

青森のりんごは美味しいと好評です。しかし、外国人から見てユニークさには欠けると感じるかもしれません。

日本の果物で人気があるのは、なんと言っても苺。日本の苺の美味しさを知る外国人は、スーパーの苺を見て目を輝かせます。

ツーリズムビジネスで果物に求められるポイントは、他の国にはないユニークな果物であるか、よほど特別な品質と「味や食感」を持っているかなのです。

温泉は外国人観光客の誰もがトライするのか?

もう一つの例として、「温泉」を挙げます。温泉は日本人にも外国人にも人気があります。しかし、必ずしも外国人の誰もが温泉を好むわけではありません。文化背景によって受け入れ方が大きく異なります。

例えば、イギリス、北アメリカ、オセアニアやイスラム教の国から初めて日本を訪れた旅行者は、温泉に抵抗があるかもしれません。

一方で、サウナ文化がある北欧の人々や、温泉文化に馴染みがある北アジアの旅行者は、日本の温泉にトライする可能性が高いでしょう。

3. 外国人が認知しづらいネーミング

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日本には日本特有の文化や価値観を表す言葉があります。例えば、「おもてなし」や「千客万来」などです。

これらは、ローマ字読みで「Omotenashi」や「Senkyaku-Banrai」と言っても、一般的に外国人観光客には通じません。

「千客万来」は、豊洲市場に併設された新しい商業施設の名称としても使われています。

豊洲の「千客万来」は、外国人観光客の取り込みが期待されていたにもかかわらず、外国人観光客が少ないという声があります。

「豊洲市場は築地のような市場感がない」、「歴史が浅い」などの意見もあります。実際に、築地市場のカオスな雰囲気を好む外国人観光客が少なくないのは事実です。

しかし、実は最も問題なのは、新しい施設の名称「千客万来」が、外国人にはピンと来なくて覚えづらく、認知されていないことなんです。

施設に外国人が楽しめる要素はあります。例えば、早朝は豊洲市場でマグロの競り見学ができます。築地市場のマグロの競り見学は優先順で、3時間待ちということもありましたが、豊洲市場は予約制で整備されています。

飲食店やお土産屋などの店舗数は全70店舗。食べ歩きを楽しめますし、支払いはキャッシュレス対応。外国人が心地よく過ごせる環境や対応は整っているのです。

もし、キャッチーで覚えやすい名称であれば、もっと認知されて、外国人観光客の来場が増える見込みは少なからずあるのではないでしょうか。

4. 柔軟性に欠ける対応

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「日本式」にこだわるあまり、外国人観光客の多様なニーズに対応できていないケースが見られます。

例えば、外国人にとって朝シャワーを浴びるのは一般的です。朝食に焼き魚を食べることは外国人にとって一般的ではありません。

「週末のモーニングはクロワッサンじゃないと食べられない。」というフランス人もいるでしょう。

宿泊施設の入浴の時間帯や、食事のメニューなど、柔軟な対応をすることで、より快適な滞在を提供することができます。

「時間」についても考え方が違います。「午前10時集合」と言われたら、日本人は5分前に着くことを「常識」としている場合は少なくないでしょう。

一方、他の多くの国では「午前10時集合」と言われたら、5分前に着くことが当たり前だとは思いません。一般的に時間ピッタリに到着するか、少し遅れてくるのは常識の範囲内です。

外国人観光客に「日本式」を強制するのではなく、まずは多様な文化を理解し、フレキシブルに対応することが大切です。

5. インフラの問題が考慮されない観光戦略

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「オーバーツーリズム」という、どこか人道的ではない言葉が流布していますが、その解決法の一つは「分散」です。一方で、地方の観光振興において、交通のアクセス性やインフラの問題を抱えています。

旅のルートを考慮した観光戦略が欠けている

オーバーツーリズムでよく問題視されているのは、外国人観光客のマナーや自然破壊などの問題です。しかし、これらの問題は決して外国人観光客に限った話ではありません。人間が存在する以上、マナーや自然破壊の問題は生じるでしょう。

オーバーツーリズムの本質的な原因は、実は日本の都市計画や観光戦略にあります。

例えば、多くの外国人観光客が使っていたサービス「JR Pass」は、地方へ旅行する機会を促すことにつながる魅力的なサービスでした。

ところが、JR Passが2023年10月に値上がりしたことにより、外国人観光客は以前と比較してお得感を感じなくなっているのです。

これにより、外国人観光客の地方誘客に影響が出て、観光客を「分散」させる戦略でマイナスに作用する可能性も考えられます。

さらに、いくつかの地方都市の観光戦略は、主に中国や台湾、韓国からの飛行機の直行便に焦点を当て、注力しています。

一方、世界から訪れる観光客の大多数は、成田空港や羽田空港、関西空港を玄関口として利用しているのは事実です。

もちろん、地方都市の直行国際便の利用促進は重要ですが、大多数が利用する主要な玄関口からの旅行ルートも考慮した、複数のルート戦略が求められます。

JRは、外国人観光客を地方へ「分散」させるためのルート戦略において、実は重要な鍵を握っているのです。

目標値と受け入れのインフラに整合性がない

地方の観光において、目標を設定する際に、まずは観光客の移動手段や宿泊施設の整備など、インフラ面での整備が必要不可欠です。

日本の地方には美しい自然環境があり、魅力的な場所が数多く存在しています。一方で、東京、京都、大阪などの大都市以外の地域は、ほとんど認知されていないという点が、まず大きな問題です。

さらに、それらの美しい場所には自動車がないと移動できないアクセスの問題があります。交通インフラの課題を解決しなければ、地方への観光客誘致は困難でしょう。目標値を設定して達成するには、ハードルが高い問題を多く抱えているのです。

外国人観光客1,000人の集客には約400台のレンタカーが必要

例えば、地方でイベントを開催し、1,000人の外国人観光客を集客することが目標だったとします。

イベント会場に行くための唯一の交通手段が自動車の場合、1台の自動車に2〜3人乗車したと考えて、少なくとも約400台のレンタカーが必要です。

イベント会場から最も近い主要な駅周辺でレンタカーの在庫は十分でしょうか。

宿泊が必要なイベントの場合であれば、イベント会場の20km圏内に宿泊施設は何軒あるのでしょうか。

人間が存在すればゴミ問題は必ず発生する

オーバーツーリズムにより引き起こされているゴミ問題が指摘されていますが、人間が存在するところには当然ながらゴミは出ます。

外国人観光客が訪れること自体が問題なのではなく、人の滞在や居住が増加することで発生し得る問題に対して、受け入れのためのインフラ整備が十分に進んでいなかったことが失敗であり、今後の課題と言えるのではないでしょうか。

プロモーションして集客できても、受け入れのインフラが整備されていなければトラブルだらけになることが予測されます。インフラだけ整備して、プロモーションしない場合も観光客は来ないでしょう。

いずれにしても「モノさえ良ければ売れる」のは大きな誤解で、いかなるビジネスにおいても稀です。ビジネスが成功するのは、多角的な要素を含んだ戦略ありきです。

6. 紙媒体への依存

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英語の紙雑誌(フリーペーパー)は20年前に人気があり、当時は週刊誌や月刊誌として刊行されていました。

しかし、現在は四半期ごとの発行で、配布状況も以前と比較してかなり低下しています。なぜなら、旅行者はオンラインで情報収集するのが当たり前の時代だからです。

現在、日本で紙媒体の広告費はどれくらいなのでしょうか。以下は、JR東日本企画の調査による、2007年と2021年の日本全体の総広告費とその内訳を比較した表です。


出典:「日本の広告費」2007年、2021年の「紙媒体の金額」|キクコトシニア|ジェイアール東日本企画

いずれの紙媒体も、2007年と比較すると大幅に減少しています。

株式会社電通の発表によると、フリーペーパーは2022年〜2023年の前年比96.3%減少

一方、インバウンド市場で、今でも紙媒体に多額の広告予算を使っているのを見受けることは少なくありません。

外国人観光客の多くは、旅前にデジタルプラットフォームや、ソーシャルメディアのインフルエンサーから情報を収集して日本を訪れます。

そのため、到着してから紙媒体を見ることはあまり考えられません。紙媒体に依存した広告戦略は、効果的な戦略とは言えないのです。

紙媒体を使っている理由はいくつか考えられます。例えば、企業と印刷会社との既存の関係を大切にしていることや、日本特有の慣習やビジネスモデルがあることです。

企業間の関係性や慣習は大切ですが、インバウンド集客を目的とするなら、プロモーションを紙媒体で行うのは賢明な方法とは言えません。

観光ビジネスに期待されているのは、日本の地域や市民の生活を豊かにすることです。観光を通じて、地域の活力を引き出し、持続可能な未来を築くことが最も重要なのではないでしょうか。

7. 単一のプラットフォームに依存した狭いデジタル戦略

10年前、TripAdvisorは旅行者の生の声が聞ける人気の口コミプラットフォームで、企業はTripAdvisorのレビュー獲得に力を入れていました。

しかし、今はTripAdvisorの人気は大幅に減少しており、TripAdvisor一辺倒のデジタル戦略は、もはや通用しません。

TripAdvisorは、「前年同期比の収益が10%減の2億5000万ドルになった」と2024年8月に発表しています。

代わりに、多様な複数のプラットフォームを利用し、ターゲット層に合わせた戦略を立てる必要があります。

例えば、自社のWebサイト、広告配信できるツーリズム専門のWebサイト、OTA、Instagram、TikTok、YouTube、そして個々の趣向性を考慮した専用アプリなどです。

専用アプリには、例えばビール好きにはビールバー向けの専用アプリ「Untappd」や「Beer Advocate」などがあります。具体的なペルソナを考慮することも必要です。

まとめ

日本が魅力的な観光地であることをアピールするためには、インバウンド市場のニーズを深く理解し、多様なチャネルを活用した戦略的なマーケティング活動が求められています。ビジネスはトライ&エラー、失敗しても改善の余地はあります。失敗はあくまでもプロセスに過ぎません。失敗から学び、諦めないことが最も大切です。日本のインバウンドツーリズムはこれからが勝負です。

インバウンドビジネスに関するマーケティングや、デジタル戦略についてご相談がある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

注)当社が運営するメディアは、主に英語圏や英語を理解できる外国人のユーザーを対象としており、全てのインバウンド観光客を対象としているわけではないことをご了承ください。

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