インバウンド対策のマーケティング手法:改善余地はまだまだある?

Kaori Kitagawa

日本に詳しい外国人ビジネスマンの視点から

訪日外国人が増える中、日本の企業はインバウンド観光客に本当に効果的なマーケティングを行っているのだろうか。日本に15年ほど在住している外国人のビジネスマン、Jeff Crawford氏が書いた記事を最近読み、そのことがとても気になり始めた。この記事は、彼の視点から、日本企業が犯しがちなマーケティングの失敗トップ10を挙げており、これらはインバウンド観光客をターゲットに絞った場合にも当てはまるように感じられる。


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まず1つの大きなポイントは、日本の文化に慣れていない/日本語がネイティブでないインバウンドのユーザーが普段見ているサイトと、日本企業のサイトのユーザビリティがかなり異なっているという点だ。つまり、海外の人に使い勝手が良いようにローカライズされていないわけだ。具体的に実例を述べると、初めてのユーザーがアクセスした際に企業概要の内容が分かりづらい場所に書いてある、ビジュアルが日本特有のユーザビリティである等だ。可愛い「絵」や「キャラ」は多いが英字フォントのサイズや種類への考慮があまりなかったり、海外では主流である「ユーザーにeメールアドレスや意見をアクセス中にユーザーに記入させる機能(インラインマーケティング)」がほぼなかったりするので、収集できるはずの貴重なユーザー情報を集める機会を失っているだけでなく、海外のユーザーがいまいちピンと来ない体験になってしまっているようだ。

その他、既にデジタルマーケティング手法としてグローバルスタンダードになりつつあるGoogle Analyticsや、WordPress、安くオンラインで手に入るマーケティングオートメーションを使いこなせていないことで必要以上の出費や時間を費やしているという点もある。また、ファストトレインの創業者兼CTOであり、同じく長年日本でビジネスをしているグレッグ・レインの以下のコメントにも注目したい。

“Many Japanese companies marketing to consumers still see websites as analogous to brochures – a responsibility of the PR department and something that should be updated by an external contractor once every 2 years. In reality, if you’re aiming at consumers – especially inbound tourists who have no other touch points other than online – then your business is a web business. Organizations need to be marketing led and web knowledge – from writing copy to marketing automation to coding- needs to run deep in every part of the organization.”

「未だに多くの日本企業は消費者へマーケティングする際に、ウェブをパンフレットと同じ位置づけで考えてしまっている。つまり、PR部署の管轄であり、外部にアウトソースして年に2回くらい更新すれば良いという感覚だ。しかし実際には、消費者 – 特にインバウンドの消費者はオンラインでしかその日本企業の情報を収集する手段がない。そうするとそれは既にウェブ中心のビジネスであり、ウェブ中心のマーケティングになるべきであると認識することが重要になってくる。企業内のあらゆる部署がウェブコピーの書き方、マーケティングオートメーション、コーディングなどのウェブ知識を意識して、マーケティングに重点を置いたほうが良いのでは。」と述べている。

また、レインは以下の点もインバウンド観光客へのマーケティングに効果的だと指摘している。

1) クラウドソーシングによって旅行者の意見が書かれているサイトが必ずしもビジネスに繋がるわけではないという事実を知る事

このようなサイトには正直な旅行者の意見が載っていて反響がある一方、インバウンドの観光客が求めがちな「めずらしい情報」「あまりまだ一般的になっていないお得な情報、穴場の情報」などが少ない場合が多い。また、この手の大手サイトのユーザーベースは主にアメリカに限定されており、オーストラリア、イギリス、東南アジアにユーザーベースがあまりない。

2) 英字で書かれた記入用紙等のローカライズを見直す事(日本語の直訳版にしないこと)

現在、多くの英字で書かれた記入用紙(SIMカードの注文書やホテルの予約記入用紙等)は日本語の直訳である。外国ではこういった長々と記入させられるという習慣が少ない上、記入する必要がないと感じる個人情報の欄も存在するため、場合によっては記入が面倒臭くて購入までに至らない場合もある。西洋の文化では、性別や年齢によっての差別を避けるため、履歴書に性別や年齢を記入するのは必須ではない。もしどうしてもこの情報が必要であれば、本人に聞かなくてもアルゴリズムを使えば性別をほぼ当てることさえできる。つまり、各記入項目も本当に必要なものなのかを見直すことで、インバウンドの消費者を逃さないようにする工夫ができるわけだ。


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観光客が案内所にたどり着く前のマーケティングに力を入れよう

最近、特に東京では外国人に対して総合観光案内所というような位置づけの場所が増えてきている。

例えば、丸の内トラストタワー内にできた、ティー・アイ・シー・東京(TIC Tokyo)。東京駅から歩いてすぐで、まるで高級ホテルのような佇まいのビル内に他言語で書かれた東京情報のパンフレットがずらりと並ぶ。その他、東京駅には今年の夏にトラベル・ハブ・ミックス(Travel Hub Mix)というコミュニティ型観光案内所ができ、そこでは個人や自治体、企業が交流し、日本国内の情報を国内外に発信することを目的としている。

ただ、よくよく考えると、このように観光案内所を増やし、他言語を操れるコンシェルジュを揃え、紙媒体の案内書を揃えるのは既に日本に来た外国人にアピールするのには良いが、各自の国からこれから来日することを検討している人達にマーケティングするには効果的ではないのは言うまでもない。もちろん、母国で紙媒体の日本のガイドブックを買って飛行機で読んでいる人もいるかもしれないが、今は飛行機の中からでもネット検索すれば瞬時に(しかも無料で)様々な情報が手に入る時代になっている。レインが言うように、今後、企業はwebマーケティングへのアプローチを強化しなければ、インバウンド観光客へのビジネスチャンスを逃す可能性があると言えるだろう。


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