日本の田舎町と自然の風景を求めて

Chris Kirkland

英語版:Uncovering Japan’s Countryside and Nature

雪がまだ残る東京の西方面にある登山道

実は弊社の読者の間でよく話に出て来るトピックがある。それは「自然」。旅行者、もしくは日本に外国から来た人達の70%が日本の保持する大自然に興味を持っている。しかし、皮肉なことに日本の土地の75%は居住者のいない大自然である。インバウンドを対象とする旅行業界の注目をまだあまり浴びていない。今後は、より多くの人達に日本にある膨大な自然の風景を楽しんでほしいものである。

ユネスコ遺産である杉の植林地

つい最近、紀伊半島の熊野古道にハイキングに行った。田舎の味わいのある旅館に泊まり、村がポツポツある地域を訪れた。総合的にはとても楽しめる経験だったのだが、正直、欧米の旅行者の視点からすると、少し期待はずれだったことがある。古道自体はほぼ人工的に作られた植林地となっており、小川のほとんどはコンクリートの上を流れていた。そして、従来の自然の風景や野生動物の姿はどこにも見受けられなかったことである。ちょうど一緒にこのユネスコ世界遺産を見に来たイギリス人の観光客とも話したが、モノカルチャーで薄暗い杉林を目の当たりにして、私と似たような感想を述べていた。
人工的に作られた植林地や自然災害から土地を守るためにコンクリート詰め対策された場所は、残念ながら日本の「大自然」の美しさを奪ってしまっている気がしてならない。もちろん、安全第一であることはわかるし共感できるのだが、度合いというものがある。これらの人工的な場所は、もしかすると年度予算計画に入っているため必要以上に手が加えられている部分もあるのかもしれない。そして何よりも気になるのが、杉林が多すぎるために多様な生物が生殖できる環境では無くなり、結果として土壌浸食や土砂崩れなどが起こっているということである。

ユネスコ世界遺産である熊野古道のコンクリート設備の現状

 

満足して自然を楽しめる観光をする方法

熊野古道へ旅行に行った際に「田辺熊野ツーリズムビューロー」という旅行サービスを使ったのだが、これが本当に素晴らしいもので驚かされた。このサービスは地域に密着した持続可能なツーリズムであり、草の根ツーリズムであり、地域を活性化するためにあるものだった。海外の観光客にとって魅力的であるためには、もっとこのようなサービスが拡大することが大事なのかもしれない。ある程度日本語が流暢であっても、日本の地方で沢山の荷物を抱えながら3つの宿を点々とするのは、このサービスが無ければかなり辛かったように感じる。
そして、この魅力的なツーリズムのキーパーソンであったブラッド・トウルさんとも直接話をすることができた。彼と話してわかったのが、とにかく忍耐力、やる気、そして流暢な日本語が喋れることからこの地域密着型の海外からの観光客を受け入れやすいツーリズムの仕組みができたのだと思った。多言語での宿泊予約システムを導入し、多くの海外の旅行者を受け入れられる体制を整えるのにはかなりの時間と労力を費やしてきたことだろう。実際に旅館のスタッフにメールの使い方を教えたり、地域の中心人物にアプローチして信頼してもらうようになったり、様々な許可を申請し、金銭的な管理をし、いかに相当な仕事量のプロジェクトだったかが伺える。
この団体の価値観、そして提供するサービスの値段からすると、正直、京都のような日本のトップ観光地のように儲かっているとは思えない。あと、もっと一般的な旅行会社はこのような場所でビジネスを開始しないだろう。日本の田舎にインバウンドの外国人の観光客を引き寄せるビジネスを成功させるには、地域連携型であり、ブラッド・トウルさんのような日本に対して理解が深い外国人、もしくは外国人の視点がリアルにわかる人物がいないと難しいように感じる。
もちろん、熊野古道だけでなく、他にも野性の自然が残っている日本の地域はいくつかある。ただ、残念ながらこれらの場所は海外の人達が知るまでのハードルが高い。既に外国人にもよく知られている「自然」が売りの日本の観光スポットはというと、長野の「地獄谷のお猿」であったり、広島・大久野島の「ウサギ島」であったり、福岡の「河内藤園」であり、人が手を加えていない池、森、山の姿ではない。しかし、ヨーロッパはというと、全く手を加えていないアルプスが観光スポット化していたりする。6つの都道府県にわたって存在する日本アルプスだってあるのに、国外では殆ど知られていないのは何故なのか疑問である。

熊野本宮大社

 

有名な山がひとつしか知られていない日本

海外からの観光客が日本で登山をするとなるとほぼ必ずトップにあがるのが富士山である。確かに美しく日本を代表する富士山が人気なのはわかるのだが、実際に登山をするとなるとその登山体験は結構過酷であることの他、目に優しい景色を目の当たりにしたか?と言われるとうなずき辛いのが正直なところである。
登山が許される短い夏の期間に登る時にまず確実に遭遇するのが多くの登山者がぞろぞろ並ぶ長い列、早めに予約をしないと移動・宿泊施設が確保できないという事実、天候によっては期待していたような景色は見られないという点だ。
富士登山の体験をした外国人の友人がこう語っている。「雲の中、がれきをとぼとぼ登った気がした。」勝手な事を言わせてもらうと、「賢い者は富士登山を一度する。二度はしない。」というところだろうか。そんな私は実は富士登山を一度もしたことがなく、今後するつもりもない。それよりも、富士山近辺にもある山を登ろうと思う。待ち時間ゼロ、交通と宿泊の問題も無く楽ちん。景色も多彩である。そして、そこから美しい富士山を目の前に障害物がない状態で眺められることが一番の贅沢である。

富士山登山では見ることのない富士山の美しい姿

富士山以外の山脈の登山体験

私はよく登山をするが、関東や中部近辺の登山道の整備のレベルの高さにはいつも関心する。多くの登山道はあてになる交通機関を使って行ける所にあるだけでなく、道中で看板や地図は簡単に手に入るし、高地でも心地よく過ごせる山小屋がいくらでも見つかる。ただ、富士山と高尾山以外の山を登山した時に、自分以外(もしくは一緒に登山をしている自分の友人以外)の外国人に遭遇したことが殆どない。これは当然かもしれない。このメジャーな2つの山以外の登山に関する英語の情報は殆ど無いに等しい。

美しい山や丘があり、登山自体のインフラは総合的にこれだけ揃っているのだから、既存の登山スポットを外国人観光客にも利用しやすいようにすることで、ある程度海外からの観光客を増やせると私は思っている。これは決して難しいことではないであろう。

英語での日本国内の登山情報は、国内発信のスタートアップYamap以外は殆どが登山好きな日本在住の外国人によるものである。例えば登山ブログのRidgeline Imagesや四国のお遍路の維持を促進しているHenro.co、そして弊社の運営するTokyo Cheapoにも登山に関する記事が多数あるが、現在はそれくらいしか思いつかない。日本政府や企業が海外からの観光客を増やすためにツーリズムに力をいるはずなのだが、なぜこの登山のマーケットにまだ気付いていないのかは謎である。「田辺熊野ツーリズムビューロー」のサクセスストーリーからわかるように、既に海外の観光客が実際にあてにしている日本在住外国人によるウェブサイトがあるのだから、地域やコミュニティーはこのような日本に詳しい外国人とのタイアップで企画してみてはどうだろう。

赤岳の頂上から見られる景色(遠くに富士山が雲の間からてっぺんを出している状態)

外国人が考える理想的な日本のお土産

国内の観光客と海外からの観光客が求めている旅行のお土産に注目してみよう。日本人の観光客は多くの場合、旅行に行くとすぐに「お土産屋さん」に足を運ぶ。これは文化的な違いとしか言いようが無いのだが、欧米人の習慣や考え方は異なる。欧米人は、その場所に行った経験を話す方が遥かに良いお土産になると思う場合が多い。例えば日本の森の中でお坊さんとお寺で瞑想した話を持ち帰る方が、携帯ストラップやお菓子より喜ばれる。
基本的に日本人が喜ぶ観光スポットが必ずしも外国人にウケがいいというわけではない。例えば箱根の海賊船のレプリカ、富良野の人工的に作られたラベンダー畑、秩父の蒸気機関車のパレオエクスプレスなどがあるか、正直、ピンと来ない。欧米から来た観光客は、それよりも田舎の旅館や温泉のほうが、作り込まれていなくて珍しい経験で価値あると感じるのだ。自然の風景が好きな欧米人であったら、あまりお金をかけないで、田舎の民宿に泊まってローカルな温泉に入ってゆったり景色を眺めて過ごすというチョイスを選ぶ可能性が高い。

旅館「滝見の家」での食事の風景

旅館「滝見の家」での宿泊

最近体験した田舎の体験で本当に記憶に残ったのが、中山道の近くにある長野の「滝見の家」というお宿である。実は宿のオーナーと仲良くなって色々話したのだが、海外のお客様を増やしたい旨を国内の旅行会社に相談したところ、「ウェブサイトに外国人の顔を載せてしまうと日本人は引いてしまってお客さんが減りますよ。」なんて言われたこともあると話してくれた。弊社のサイトJapan Cheapoで記事を英語で書かせてもらったが、それ以外では外国人のお客様を増やす為に、例えばAirbnbに掲載されるという方法もあるだろう。しかし、英語力、そして外国人の動向が理解できなければなかなか設定して運営するのは難しいのが現状である。国内のサービスで海外の旅行者を彼の旅館に誘導するサービスは現在まだ無い。恐らく国内には他にも多くの同じような外国人から見て素晴らしいと思う体験を提供している優良旅館が同じような悩みを抱えているような気がする。

需要と供給のバランスの改善余地

私達が定期的に実施しているアンケート結果からは、明らかに多くの旅行者や外国人が日本の本当の田舎や大自然に興味があることは明らかである。では何故このような場所を訪れる海外からの旅行者の割合が少ないのかという理由は次のようなことが考えられる。英語での情報源が少ない事、プロモーションができていないこと、そして海外の人を受け入れる体制が施設側で整っていないという点である。上記でも話をしたが、現在、唯一架け橋となっているのは、日本在住の外国人であったり、外国人が中心で結成されたプロジェクトである。
最後に、欧米人としてとても楽しめた日本国内旅行について話をしよう。それは、中山道の木曽谷への旅で、本当に素晴らしいものだった。アクセスは良いし、地域の方達もとても暖かかった。看板もとてもわかりやすく示されており、なんと場所によっては高速インターネットの接続も無料で利用ができた。この素晴らしい日本で、今後、このような外国人にとってツボにはまる国内観光スポットが増える事を心から願っている。


<中山道を歩いた時の景色>

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